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なんで女なのにこの乱世を旅するのか、と前に聞かれたことがある。
その時は答えられなかったけれど。
今なら答えられそうな気がする。

きっと、あなたに巡り会うためだったんだ。














「あのう…ここで『勧誘』が出来るって聞いたんですけど」

朱樺は人の良さそうな笑顔を浮かべた店主に恐る恐る尋ねた。
ここまでどうにか一人で旅を続けて来たけど、そろそろ限界がある。
日に日に賊徒は凶暴化して強くなっているし、悪党同士が同盟を結び束になって
行動していたりする。一人身のこちらとしてはこれほど危険なものはない。
しかも、女だということもあり危険の数も倍増する。
そんな時に、通りすがりの商人から聞いたのが所々の村には昔将だった者や朱樺と同じく 旅の相棒を探すものが、『勧誘』という形で仲間に出来るというのだ。
一人で旅するのに限界を感じていた朱樺は早速最寄の村を見つけ、此処に来た。

「おう!お嬢ちゃんも相棒探しかい!最近は多いんだよな」

世の中物騒だからな。と豪快な声で言った店主は待っていろ。というように右手の手のひらを 朱樺に見せて合図すると店の奥へ消えていった。
取り残された朱樺は店の様子を見て周る。
武器やら防具やら、肉まんまであらゆる物が揃っている。
右奥には休憩するようなところがあり、なにやら人がいるようだ。二人も。
何気なく様子を見るために、近づいた。

「だから!お前は黙って俺についてくればいいんだ!雇われた身ででかい口たたくんじゃねぇ!」

「なんだと!俺は雇われた覚えはこれっぽちもねぇよ!仲間を探してんだろう、なら同等じゃねえか」

「俺はしもべを探してんだ!」

「…なら別の奴を探してくれ!!」

「もう金は店に払ってんだよ!お前なんか引かなきゃ良かったぜ!!」




「………」

今、勧誘で仲間になった人たちだろうか。
どう見ても仲がいいようにはみえない。
朱樺は顔を引き攣らせながら一歩下がった。
自分はしもべとか、そういうつもりで仲間を探しているつもりはないが相手があんな風に気が強かったら、逆にしもべにされそうだ…。
それにお前なんか引かなきゃよかったとか言ってたけど、自分で仲間を選べないということなのかな?

朱樺は複雑な顔でまだ言い合いをしている二人を見ていた。

「あ~…あれは、相性最悪だな」

「っわ!……」

急な後ろからの声に声を上げながら主人を振り返った。
主人は二人を遠目で見ながら苦笑していた。

「ついさっき、あんたと同じく勧誘を希望した奴だよ。勧誘は公平にするため、好きな相手を
選べないのが原則なんだよ。時々いるんだよな~。あんな風に初っ端から喧嘩するやつ」

「…今勧誘されるのを待ってる人にあんな人たちいます…?」

朱樺の質問に少し顔を和らげた主人が首を振りながらいった。
手には何かの板を何枚か持っている。

「大丈夫だ。今勧誘待ちは三人いるんだが、どれもしっかりしてるし腕も確かだよ」

そういって朱樺の前に小さな板を三枚出した。
訳が分からず主人を見つめる朱樺に笑いかけながら優しくいった。

「さぁ、どれか引いてみな。名前が書いてある奴がお前の相棒だ。…これも運だからね」

「………はい」

運。
今まで生きてきた中で、自分は運がいい!と思ったことはこれまでに一度もなかった。
逆は数え切れないほどあるのだけど…。
朱樺は目の前にある三枚の板札を睨みながら唾を飲んだ。

どうか、強そうな、そして良い人に当たりますように……!

朱樺は右の札を思いっきり引いた。
一息ついてから裏返す。


「…凌…統」

板には墨で『凌統』と綺麗な字で書かれていた。
これから旅をするのだから、どうせ一緒なら屈強そうな大きな男の人がいい。
そう思っていた朱樺は凌統という字を見て、心の中でこう思った。

何だか、弱そうな名前……。

「おぉ!あいつか!良かったな、きっと気に入るよ!お嬢ちゃんちょっと待ってな」

店主はにっと口の隅をあげるとまた奥へ消えていった。
どんな人なのだろう?
できれば熊みたいに大きな人のほうが頼りがいが合っていいのだけど…。
朱樺は自分がとった札を見つめながら待っていた。
すると、誰かが店の戸を開けて入ってきた。
振り返って人物を確認する前に、入ってきた者は声を上げた。

「あ、その札」

「はい?」

振り返ると、長身ですらりとした青年が立っていた。
髪の毛が少し癖っ毛なようで、たれ目に泣きほくろだ。
青年は札と朱樺を交互に見ながら尋ねた。

「その札、あんたが引いたの?」

「はい。それがなにか」

青年は、朱樺を品定めするように下から上に目線を配らせた。
手に顎を置いて無言で見ている。
なんか、やな感じ…。
まさかこの人じゃないよね?いかにも強くなさそうだもの…。
二人で無言でにらみ合っていると奥から主人が戻ってきた。

「凌統!どこにいってたんだ、其処のお嬢ちゃんがあんたを引いたよ」

「え!?」

思わず、大きな声を上げて主人の方を振り返った。
主人はにこにこしている。
まさか、この人が凌統…?
弱そうな上に、やな人そう…。

「お嬢ちゃん、この人が今日からあんたの相棒の凌統だよ」

凌統のほうをちらりと見ると、凌統は皮肉な笑みを浮かべて、

「そういうこと」

と軽く言った。


やっぱり運ついてないのね…。

凌統の顔をまじまじと見ながらそう思った。
だって、ちゃらちゃらしてそうで本当に弱そうなんだもん…。

「ちょっとあんた、今俺のこと弱そうとか思っただろ」

「えっ!?なんで!?」

「顔に書いてあるよ」

「うそ!?」

思わず両手で頬を包む。
顔を真っ赤にしてあたふたしていると凌統はくつくつと喉の奥で笑った。

「うそ。カマかけたんだけど…本気でそう思ってんだ」

「酷い!騙したんですね!?」

頬を膨らませて凌統を睨むと凌統は恐い恐いと肩を竦める真似をした。
全然恐くなさそうである。

「酷いのはあんただろ?見た目だけで判断しないでくれるかい?」

ぼんっと効果音がつきそうなほど顔が赤くなった。
それをみて凌統が口を隠して笑った。
可愛い…。

そんな二人の様子を見て店主が豪快に笑った。

「なんだ、やっぱり仲良くやっていけそうだな!いや~よかったよかった」

全然よくないんですけど…。
朱樺は心の中で呟くが口に出すことはなかった。
それから無言で店主に勧誘代金を渡した。
さっきの人たちみたいにならないように、頑張らなくちゃ…。
もう一人勧誘する分のお金なんか何処にもないんだから。
負けちゃ駄目…!
朱樺は一人、決意を固めると凌統に向き直った。
凌統も不思議な顔をしながら朱樺の方を向く。

「あの、これからどんな旅になるのか分からないんですけど…
よろしくお願いしますね…?」

この『よろしく』は守って下さいのよろしくではなく、これから
長く旅を続けていくのだから、一緒に頑張ろう。という意味のそれだ。
それも凌統はちゃんとわかってるらしく、

「まっ、先は長いんだ。肩の力抜いて気楽に行きましょうや」

朱樺の頭をぽんぽん、と軽く叩いた。

とにかく!旅の相棒は決まったんだ。
根っからやな人でもなさそうだし…頑張っていこう!!