どうしても、泣きたい時が誰にだってある。





小さな優しさ、大きな想い





こんな顔を誰かに見られるわけにはいかない。

こんな泣き顔を。


同期に次々と追い越されていく焦燥感。
未来には何も光が見えない。
過去には戻れない。

昔に戻れたらどんなに幸せだろう。
こんなに寂しい思いをするくらいなら、仙人への道なんて
選ばなければ良かった。

愛する家族、共に笑いあった友達。

でも、過去を取り戻す事は出来ない。
今更戻れない。

だから、辛い時はこうやって一人でこの丘にやって来るんだ。

さらさらと優しい風が吹き、木々が揺らめく。

目の前に広がる、唯一安心できる居場所。



またひとつ、抱いている膝に涙が零れた。




「……あーた(あんた)、泣いてるさ?」


いきなりの後ろからの声に涙を拭う事も忘れて振り返った。

「…やっぱり泣いてるさ」

言われて急いで涙を拭う。

誰…?

見た事ない顔だった。ここにいるって事は仙道だ。

煙草を咥え此方に近づいてきた。
顔に、鼻の上に一筋の傷がある。

「…横、すわるさね」

の返事を待つことなく男は横に腰をおろした。
男は何か言うわけでもなく、を気にするわけでもなくただ煙草を
吸っていた。


「あの」

「あーた、名前は?」

の言葉を遮って男は質問した。

「…といいます」

か。俺っちは天化ってんだ」

「…天化…さん」

天化が煙草をふかす。
風に乗って煙草の匂いが鼻を掠める。

本来煙草は好きじゃない。……でも、今は何だか安心する。


「あ、そうだ。これあげるさ」

そういって手の平に桃を差し出した天化。

が躊躇っていると天化がにっと笑った。

「危ないものじゃないさ。道徳コーチが
筋トレしてる間にかっぱらってきたさ!」

道徳真人様…。崑崙十二仙が一人。その方の弟子なのだと思った。

「…はぁ」

天化という男はこれ以上何もいう事なくが帰るまで横にいた。

不思議なひと…。



帰り道、天化から貰った桃を見つめる。
桃の甘い香りが心を落ち着かせてくれる。

初めてあった人なのに、何だか落ち着く人だったな。
どうして横にいてくれたんだろう。

桃を見つめながら、は思った。

「励まして…くれたのかな?」

でも何で初めて会ったあたしに?

「…お礼、いわなきゃな…」

明日もあの丘に行こう。

あの丘に行けば、また、逢える気がするから。




次の日。

あの人は来ていた。

あたしに気が付くと天化は笑って手を振った。
あたしも遠慮がちに手を上げる。


「……よく、来るんですか?此処」

「あぁ。ここは俺っちの避難場所さ!道徳コーチが筋トレって
煩い時は逃げてここへ来るんだ」

あぁ、何だかお礼をいうだけなのに緊張する。

天化は黙って空を見上げていた。

「あ、あの…」

「?何さ?」

「…有難う、ございます」

天化はきょとんとした顔になった。
しかし、暫くして破顔一笑した。

「あぁ!桃か?気にする事ないさ!美味かったさね?」

「…はい」

桃もだけど…。
何も言わず傍にいてくれた事、有難うございます。

でも、何で?

「…聞かないんですか?」

「何を?」

「昨日、泣いてた事」

「…あぁ」

天化はそういうとまた空を見上げた。

「…聞かれたくない事の一つや二つ、誰にでもあるもんさ!
俺っち無理に聞こうとはしないさ」

は俯いてしまった。

「…怖いんです」

「………」

黙っている天化。

「仙人界に来て、ずっと一人で…。師匠はいるけどそんなんじゃ、なくて…」

涙で、視界が揺らいできた。

「それに、修行は…全然うまくいかなくて…」

いっつも一人ぼっち。

下界にいる時は、孤独なんて味わった事なかった。
いつも誰かが傍にいてくれる。辛い時は一緒に苦しんでくれる。

「なんだ、そんなことさ」

天化が何でもないようにいった。
その言葉に少しむっとして。

優しいと思ったのは勘違いだった?

「修行なんて自分のペースさ。師匠がなんと言おうと自分が出来るときに
頑張らないと身につかないさ!そんなにせっかちになる必要はないさ」

…違う。

「あーたらしく、いけばいいさ」

ううん、違うよ。

「それに、一人で寂しい時はこの丘に来るさ!」

そう、本当に…

「…寂しい時は、俺っちが…此処にいるさ」

優しいんですね。

涙が、頬を伝って落ちていった。



は静かに生まれた小さなある想いに胸をつまらせた。







天化のおかげか、それからというものの修行は順調に進んでいった。

『あーたらしく』

そう、あたしらしく。自分のペースで行けばいいんだ。
急いで一人前になることなんてないんだ。



そうして二月程たった後、は師匠に呼び出された。

、よく頑張った。明日貴女にも宝貝を授けましょう」



嬉しくて、本当に嬉しくて。

あれ以来、天化のおかげで辛くて泣く事もなくなった。
寂しくて一人あの丘に行く事もなくなった。

でも明日、あの丘に行こうと思う。

違う。泣く為じゃない。



天化さんに会いに…。



いないかもしれない。もう随分あそこへ行ってないもの。
もしかしたらもう彼は人間界へ降りているかもしれない。

それでも、天化さんの思い出が残ってる場所だから。

逢えないかもしれない…。

と、思ってたのに。





「!久しぶりさ!」

「………」

が返事を返さないので天化は不思議そうに顔を覗き込んできた。

「?」

天化がぽんっとの肩に手を乗せる。
それでやっと我に返ったは何かが切れたようにいきなり話し出した。

「あ、あの!あたし、今日宝貝貰えたんです!ほ、ほら!あの、だから
天化さんに一番に見せたくて、あ…会いたくて!そ、そしたら…」

本当に此処にいて…。

涙が、出てきた。

逢えたのが、こんなにも嬉しくて…。

「…有難うございます」

丁寧に頭を下げた。

それを見て天化が柔らかく笑った。

「よかったさ。俺っちはなーんにもしてないさ。全部の努力の
賜物さね!」

天化はよく頑張ったとでも言うようにの頭を撫でた。

が天化の前で初めて笑った。

「そうさ、俺っちのその笑顔が好きだったさ!」


「…え…?」


不思議そうに首を傾げる。


あたしは、天化さんの前では泣いていてばかりで。

笑った事なんて一度も…。

なのにあたしの笑った顔が好きだといった。


天化はの表情を見て、あっという顔をした。


「あ〜…実は俺っち、…あーたとこの丘で出会う前から
あーたの事、知ってたさ」

「へ…?」

一寸きまづそうな顔をして天化は煙草をふかした。


「結構前の事さ…。いつものように筋トレって煩い道徳コーチから
逃げて、この丘の木の木陰で昼寝してたさ。そしたらと霊獣が
やってきたさ」










『ついてこないで!ここはあたしの秘密の場所なのに!』

(俺っち知ってるさ…)

『…主が探している。戻ろう』

『……嫌。あたしは出来そこないの子だから修行したって
無駄だもん!』

『そんなことはない。主はお前を高く評価している』

話を聞いててちょっと変わった子だと思ったさ。

あの霊獣はあーたの師匠のだったんだろ?

『今日、頑張ったら…主に内緒で下界へ連れて行ってやろう』

『…本当?約束だよ!』

は単純で、素直な子だったさ。

そして、あの時の嬉しそうな笑顔から目が離せなくなったさ。












「だから、に逢いたくて…前にも増してこの丘に通ったさ」

そしてあの日、泣いてるを見つけた。

「…天化さん…」

「…恥ずかしい事さ」

はにっこりと天化に笑った。
















「あっ師匠!」

「黄天化が人間界へ降りたそうです。太公望を手助けするために…」

「…!」

あたしは決意した。

「師匠、あたしも人間界へ行かせてください!」

今度は、あたしが天化さんの役に立ちに……!!!!





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封神夢、初書きは天化でした…!!
彼、大好きです。
強くて真直ぐで、優しくて。
こんな人本当にいたらいいのに。・゚・(ノД`)・゚・。(何言ってんだ)

ここまで読んでくださって有難うございます!


  2005/3/28