戦の軍配は呉に上がった。

当然、その日の夜は夜通し宴会が開かれる事となった。
戦を終えて、無事に皆の顔が揃うと孫権はとても嬉しそうに
上座へと上がった。

「皆、よくぞ無事に帰ってきてくれた!戦も我々孫呉の勝利だ!
今日はとことん飲もうぞ!」

孫権が右手に持った杯を高く掲げた瞬間、天幕内はわぁ!と歓声が上がった。

残念な事に昼間の晴天が嘘のように、今は眩しい月明かりも雲に隠れ雨が
音もなくしとしとと降り注いでいる。







すごい。有名な武将達がこんなにたくさんいる。

は初めての宴会に心躍らせながらも緊張しきっていた。
来てからずっと足を崩さず正座のままでいる。
自分が宴に呼ばれる事自体驚いたのだが、まさか豪傑たちがこんなに近くにいるとは…。
手に持った酒は進まない。ちらちらと名立たる諸将たちを見ているだけだった。

兄様が、自分の近くにいてくれると期待は全くしていない。
お酒が大好きで宴会好きの兄様の事、私なんかほっといて仲間と飲み比べでもしているだろう。
現に、さっきまで隣りに座っていたのにもうもぬけの殻だ。

皆に挨拶もしていないのだ。
誰だ、誰だと時々視線が刺さる。その視線を避けるようには小さく丸まり俯いてしまった。

気まずいなぁ。知り合いなんて兄様しかいないわ…。
気が利く兄様じゃないから私がこんな思いしてることなんてわからないはず。

はちらっと甘寧の方を見ると、甘寧は既にもう出来上がっている。
仲がいいのだろう、呂蒙様、陸遜様と一緒に豪快に笑っている。
視線に気が付いたのだろう。陸遜がの方を見てにっこりと微笑んでくれた。
それに少しほっとして小さく笑い返す。

仲がよい友がいる甘寧を少し羨ましく思いながら、は持っていた杯を一気に傾けた。
豪快な飲みっぷりだ。

もう、視線にも慣れて来たし、あちらも隅のほうにちょこんと座る少女よりも目の前の酒の方が
よっぽど魅力的だったようだ。殆どがを気にしなくなっていた。




折角勝利したのに、一緒に飲む相手もいなければ嬉しさも半減する。
自棄酒ではないが、ぐいっともう一杯飲み干した。
が、運がいいのか悪いのか、飲み干した瞬間をもう出来上がっている集団の一人と
目が合ってしまった。その男はにやっと笑うと傍にいる男達に何かを囁いた。

「ぅ…。なんか嫌な予感が…」

予感はばっちり当たった。集団は酒樽を抱えての前まで来るとどっかり座った。
たじろぐをよそに質問攻めする兵士達。

「お嬢ちゃんいい飲みっぷりじゃねぇか!でも、見た事ない面だな。名前は?」
「いくつなんだ?」
「誰かの娘かな?」

「え…えっと、私は……」

酒くさい…。

返答に困っていると、別の所から視線が…。
そちらをちらりと振り向くと、視線の人物は意外な人だった。

「!!」

りょ、凌統様…?

凌統は隅の方で背中を壁に預けながら一人で飲んでいた。

が凌統の方を向くと、凌統は何もなかったように視線をから外し
自分の持っている杯へと移した。


今…こっち見てた…?
…気のせいだよね?ちょっと自意識過剰だよ、私…。



「きいてんのかお嬢ちゃん!?ほら、もっと飲めよ!」
機嫌のいい兵士はの杯に酒を並々注ぐと、飲めと促した。

しつこい男には仕方なく酒を飲み干した。
おぉ!っと歓声が上がりまた杯が酒で満たされていく。

もう、何杯目であろうか。
男達は豪快なのみっぷりのに幾度となく杯を満たしてゆく。
酒にはめっぽう自信がある。兄の甘寧にも負けない。

男達を適当にあしらって酒を飲みながら、はもう一度凌統のいた
方を見た。

先程までいたのに、今は姿が無かった。
杯や酒樽はそのままで、帰った様子はないようだ。

どこにいったんだろう…。




いい加減、飲みすぎてしまった。もう、大きな酒樽一杯半ほど飲んだだろう。
頭がぼんやりして、思考回路がうまく働かない。

「お嬢ちゃん?…飲ませすぎたか?」
「それにしても、結構可愛いな。持ち帰っていいかな?」
「馬鹿!お偉い方だったらどうすんだ!」
「偉い女人だったらこんな所にいねぇよ!」
「それもそうか」

男達が何やらいやらしい話をしているが、頭が回らないはわかっていない。
男達はを立ち上がらせ、連れ出そうとしていた。

が、一人の男の手を掴んだ者が居た。
男達は其れを見ると、見る見るうちに青ざめて固まってしまった。
は状況がよく分かっていない。

「…?」

「この子は置いて行ってくれるかい?」
「りょ、凌統将軍!!!」
「多分知らないだろうから言っておくけど、この女の子は甘寧の妹だよ」
「!!!?もっ申しわ…」
「何で俺に謝るの。いいから、明日からまた調練始まるよ。もうお開きにしな」
「は、はい!!!!失礼します!!」

男達は何度も凌統に向かって頭を下げると逃げるように天幕を出て行った。


「………」

昼間、手叩いちまったからな。此れでおあいこだ。

凌統は目の前で何時の間にか、すやすやと静かな寝息を立てて寝る
見下ろした。樽を枕に気持ちよさそうに寝ている。
小さく溜息を吐くとどうしたもんかと考える。
甘寧の方をちらっと見てみても、あいつはまだ呂蒙殿と陸遜とドンチャン騒ぎだ。


「…しゃあねえな」


凌統はを軽々持ち上げると静かに天幕を後にした。




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勝利の宴にて。
凌統はださかっこいいですよね。(何いきなり)


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2005/3/20