ちゅんちゅん。
雀が鳴いている。
「…今何時…」
窓から差し込む光を手で遮りながら一段と低い声で独り言を呟く。
何時もより、布団が固いのは気の所為か。
太陽の位置を見てみると…かなり高い位置まで昇っている。
「…!!遅刻じゃん!!!!ちょっとお母さんなんで起こしてくれないの!!!!」
もぞもぞと布団の中にいたは、予想以上に時間が過ぎている事に
焦って飛び起きた。しかし部屋の風景が、匂いが、何時もと違う事に気が付く。
「……あ。どっかに来ちゃったんだっけ」
頭を軽く掻きながら昨日の出来事を冷静に思い出してみる。
部屋の空気が冷たい。
「………まぁ、悩んで考えても仕方が無いしね!!あたしは此処に
いるんだから」
は持ち前の楽天的な性格を発揮して、頭を切り換えた。
「お腹空いたわ。ご飯ご飯」
部屋の直ぐ傍にある井戸で顔を洗って髪の毛をある程度直すと、
ご飯を得る為部屋を出た。
真直ぐに何処までも続く廊下、無数にある部屋の扉。
は一歩出てしまうと必ず迷う自身があった。
辺りを見回してみるも、人っ子一人居ない。昨日、友達になった
弧千さえ居ない。用がある時何時でも呼べといったじゃないか。
どう呼べというのだ。
「だ、大丈夫よ!!方向音痴ではないし!!」
は決心すると、自分の部屋の扉を一度確認すると一歩、踏み出した。
「…迷った。そういえば方向音痴どころか、この城一回も見て廻った事無いんだから
分からないのは当たり前よね」
我ながら、馬鹿だと思う。
部屋を出てから随分時間が経った。角を曲がったり十字路を曲がったり、既に帰り道は
分からない。腹の虫が何度鳴っただろうか。
「もう!!苛々する。何で誰とも一度も会わないのよ!!」
どすどすと音を立てながら闊歩して城中を歩き回る。
そして角を左へ曲がろうと思った瞬間、向かい側からいきなり黒い影が現れた。
勿論急な事なので避けきれる筈も無く見事にぶつかった。
「きゃ」
「おっと」
ぶつかった拍子に黒い影の人物が持っていた大量の書簡がの頭目掛けて降ってきた。
咄嗟に頭を抑えて降ってくる書簡から逃れようとしたが、殆ど意味を成さなかった。
「…いててて」
「申し訳ない。沢山持っていたので前に注意がいかなかった。大丈夫か?」
「…はい。なんとか」
頭を摩りながらぶつかった人物を見上げると、一番初めに目がいったのは
ダンディーな髭だった。鼻と口の間にある其の髭はきちんと整えられていて
男に良く似合っていた。
「?…大丈夫か?」
もう一度男が問うた。それにはっと我に返り慌てて返事をする。
「あっ!!はい。此方こそ御免なさい」
素直に頭を下げると直ぐに頭を上げてくれという声が上から降ってきた。
なので、頭を上げ改めて人物を見た。
背は高い。が、呂布ほどではない。あの身長は怪物だとの中では処理されている。
が目で何かを訴えている。それに意図するものを読み取ると男は姿勢を正して
微笑んだ。
「私の名は張遼。張文遠だ」
「…張遼さん。あたしはといいます!!」
「!!では貴殿が呂布殿が連れて帰ってきたという…」
「はい。多分そうです」
「そうか、宜しく頼むぞ」
「??はい」
何が宜しくなのかは分からないがとりあえず返事を返した。
それを見た張遼は満足そうに頷くとまたにこりと笑った。
普段の顔は少し近づき辛いのだが、笑うと可愛い。これがの張遼に対する印象だった。
二人で落ちて散らばった書簡を拾い上げる作業をした。
話をしてみるとかなり面白い人で、は何度も笑い転げそうになった。
「あっ!!そういえば張遼さん。ご飯食べるところって何処にあるんですか?」
お腹空いちゃって。と腹を摩りながらいう。
張遼は微笑むと軽く会釈をして答えた。
「それなら、ご一緒にお供いたそう。書庫も途中にあることだし」
「本当?有難う御座います!!」
暫く話しただけで、張遼とは随分と仲良くなれた。こんな訳の解らない土地に連れて来られて
行き成りお城に住まわせてもらえて。そんな中で親しい人間が出来る事は嬉しい事この上ない。
暫し待っていてくれというと、張遼は書庫の奥へと消えていった。
埃臭い。書物独特の匂いがするこの部屋は古い本でぎっしりと埋め尽くされていた。
もう、何年も触れられていないような書物が山ほどある。
はその中の一冊を手にとると、何気なく開く。
やはり字は読めない。蚯蚓が走ったような字ばかりでちっとも意味が分からない。
どの本を開いてみても同じだった。
つまらなそうに書物を元の位置に戻すと窓際にある椅子に腰掛ける。小さな円を描いた小窓からは
兵たちが訓練をするような鍛錬所が窺えた。
「…?」
誰かが一人で鍛錬をしているようだ。目を凝らしてよく見ると、昨日のあの男。
「呂布」
上半身を露にして馬鹿でかい槍のようなものを振っている。何度も同じ動作で無駄が無い。
ぼんやりと其れを眺めていると、急に呂布は動きを止め、此方を振り返った。
「!!」
気付いていたのか。それとも偶然?呂布はじっと此方を見ているようだ。
なんとなく目を反らす事が出来ない。は瞬きを幾らかすると引き攣り笑いをして手を上げた。
「お、おはよう呂布!朝から元気ね」
ひらひらと手を振って見せると呂布はふんっと鼻を鳴らし目を反らした。
「お前とは違う。それよりそんな所で何をしている」
槍を振りながら問う呂布。
折角人があいさつしてるのに、と思いつつも直ぐに忘れて返事を返す。
「張遼さんを待ってるのよ」
「張遼を?」
動きを止めもう一度呂布は此方を振り返った。
「うん。さっき知り合ってこれから一緒に朝ご飯を食べに行くの」
「………そうか」
其れきり何も言わなくなった呂布はまた鍛錬を開始した。
今度は何を喋っても反応しない。集中してるのかな、と思っていると後ろから自分を呼ぶ声が。
「殿?誰かと話していたのか?」
先程とは違い手を空にして待たせた。といい張遼が帰ってきた。
「うん。呂布が一人で鍛錬してたから」
「あぁ、呂布殿は毎朝一人で鍛錬しているのだ。しかし、よく『鍛錬』という
言葉を知っていましたな」
「え?まあ。昔、少しだけ武芸をしてたんです」
「そうか」
張遼は微笑むと食事へいこうと促して言った。
は頷きながらもう一度呂布の方を振り返った。まだ、同じ動きを続けている。
「……がんばれ」
一言呟くと書庫から出て行った。
「……」
気配が無くなると呂布は動きを止めた。
書庫に目をやるが、姿はない。
似ている。
姿形ではない。美しさでいえば比べものにならないくらいだ。
が、芯の強さというか。凛としたものを、感じる。
「貂蝉」
呂布は己の右手を見つめると強く握った。
「…くそ。今頃になって…」
「え?呂布に…?」
「あぁ。昔の話だがな」
おかずを摘みながらは口の動きを止めた。張遼は茶を啜りながら話を続ける。
「…貂蝉という女人がいましてな。呂布殿が唯一愛した女性だ」
「…へぇ」
「本当に愛していたようだ。彼女のためなら戦にだって行くし…君主までもを、殺した」
「……」
が吃驚した顔をしていると張遼は苦笑して謝った。
「すまない。殿にはこんな話、きつかったかな」
「…いえ」
「まぁ、昔の話だ」
この後二人は殆ど無言で食事をとった。
「食事まで一緒にしてもらって有難う御座いました!!」
「いやいや、此方も久しぶりに楽しかった。また、暇なときお茶でもご一緒に」
ぺこりと頭を下げると張遼は微笑んで去って行った。
と、丁度いいタイミングで弧千が駆けて来た。息を切らして胸辺りを押さえながら
深呼吸すると深々と頭を下げた。
「申し訳ありません!!様のお部屋へ伺うのが少し遅れまして…」
様ってつけなくていいのに。
「いいよ!!張遼さんが食堂に連れて行ってくれたわ」
「ぇ!?そうですか!!…よかったぁ」
ほっとするように肩を撫で下ろすともう一度謝った。
「本当にごめんなさい。それと、今日はお城の方を案内させていただきますね」
「有難う。お願いね!!」
たちはにっこり笑いあうと城の奥へと進んでいった。
この、もやもやの気持ちはなんだろう。
昨日出会ったばかりの大男の昔の話など如何でもいいではないか。
なのに、気になる。なんだろう。
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進まないねぇ。
今回は張遼さんと仲良くなろう!!と呂布の過去がチラリ。がテーマでした!!(何)
2005/02/06