またひとり、私達は大切な、かけがえのない仲間を失ってしまった。








強く儚い人









また、共に戦いあった仲間が封神されてしまった。

みんなが悲しみにくれている。
誰も言葉一つ発しようとしない。

重苦しい雰囲気。重い。

これから先はこんな思いを何度もしなければならない
かもしれない。もしかしたら、自分がそうなるかもしれない。

それは皆が思っていること。

でも、悲しまずにはいられない。
共に楽しい時間を共有しあった仲でもあるんだから。



そんな中、この人だけは違った。

――太公望だけは。

「さあ、皆の者!戦闘の準備を始めよ!」

「………」

誰もそれに従おうとしなかった。
否、動こうとはしなかっただけ。

みんなだって心の中では分かっている。

この決戦には絶対に犠牲がつきものだという事、大切な人を失わなければ
ならないかもという事。

でも、そんな悲しんだ様子を見せる事無い太公望をよく思わない人も
出てきてしまった。

「…師叔、あんた悲しくないさ?…何とも思ってないのか?」

「…天化、やめるんだ」

道徳真君が弟子をとめる。

「あんた、…本当は…俺っち達を只の駒としか思ってないんじゃないのか?」

「天化!!!」

道徳に叱られて口を閉じた天化。
天化は近くにあった椅子を蹴り飛ばして部屋を出て行ってしまった。

望…?

どうして黙ってるの?貴方は本当は悲しいんだよね?
泣きたいほど苦しいんだよね?

私は、見てしまったの。
誰もいない夜中に望が一人で泣いているところを。




私はその日も悲しくて中々眠れなかった。

部屋を出て、洞府を出た。
そこで、望を見つけた。

小さな岩に乗って、膝を抱いて泣いているところを。
風に吹かれてる望はいつもの望と違ってちっぽけで、弱々しくて。

「…すまぬ。…わしが未熟な所為で…死なせて、しもうた…」

呟くように言う太公望は小さな衝撃でもすぐに消えてしまいそうだった。
それが本当に痛々しくて、見てられなくて。

も洞府に身を隠して泣いた。

私は望に声をかけることが出来なかった。
怖かった。望が消えてしまいそうで…




次の日も、太公望は相変わらずの調子だった。
皆が落ち込む中、太公望は一人作戦を練っている。

あーでもない、こーでもないと四不象と話している姿からは
昨日のことは想像できない。

でも…影があるのははっきりわかる。


皆が集まる中、普賢がを呼んだ。

「如何したんです?」

「うん。望ちゃんの事なんだけどね」

普賢は悲しそうにいう。

「望ちゃん…ああ見えて本当はとてもつらいと思うんだ」

「はい…」

「きっと、統率者って立場上、弱音を吐けないんだと思う」

分かってる。だから、あんな風に一人で泣いてたんだから。
誰にも弱いところを見せちゃいけないから。

「たぶん、今は僕にも弱い所を見せないようにしてる。
悲しいけど…」

普賢は本当に望想いだな、とは思った。

「でも」

普賢は真直ぐにを見ながら言った。

「貴女なら…って思ったんだけど…どうかな?」

どうかな?といわれる意味はよく分からないが、望の為に
何か出来るのであれば何でもしようと思う。

少しでも、つらさを緩和する事が出来るのであれば…




夜、は太公望の部屋を訪れた。

「…望?いる?」

が静かにいうと暫くして中から返事が返ってきた。

「…か?」

「…うん。開けてくれる?」

返事の代わりにゆっくりと扉が開く。

中に入ると相変わらずの殺風景。

質素な寝台に机と大量の書物。きちんと片付けてある。

「相変わらず、部屋は綺麗なんだね」

「落ち着かんからのう。しかし、どうしたんじゃ?
おぬしが訪ねて来るとは珍しいのう」

太公望は近くの椅子に腰掛けて、にょほほと笑い出す。
は悲しそうに微笑み、返答を誤魔化した。


暫く、他愛のない話をすると太公望。
すると、突然が泣き出してしまった。

正確には、静かに涙を一筋流した。

私が泣いてしまったら、望はつらくなるだけなのに…
泣いてはいけないのに…。

望の笑顔が今はただ悲しい顔にしか見えない。
喋っている言葉が今は助けを求める声にしか聞こえない。

「い、いきなりどうしたんじゃ!?わし、何かいったか!?」

を見て焦りだす太公望に、は俯きながら首を横に振る。

「違うの…。ごめん…」

こんなに近くにいるのに、何もしてやれなくて。
それどころか自分が望といるのが、つらい。

太公望はの傍まで行くと優しく頭を撫でてやった。
隣りに座り、まるで子供をあやす親のように…

「…どうして」

「?なんじゃ?」

「どうして悲しいって事を…面に出さないの…」

、今日はどうしたんじゃ?いつものおぬしとは…」

違うのう。

太公望はそう言いかけて止まった。
があまりにも真剣に此方を見ていたから。

「…望…」

はそう言って太公望を包み込むように抱いた。

「!!」

太公望は驚いて声も出ていないようだ。

「…望…」

「………」

「…望…、心の中に全部溜め込まないで。…せめて、私の前だけでも…」

「………」

「…望…」

「…っ…」

太公望は何かが切れたように急にを強く抱き締めた。
そうして泣きはじめた。小さな子供のように。

望は、本当に溜め込んでいたんだね…。
随分長い間泣いていた。私に回す手を緩めることなく。

は太公望が泣いている間中、ずっと太公望の頭を撫でてあげていた。









「…すまぬな。…おぬしには恥ずかしいところを見せてしまった…」

太公望は恥ずかしそうに頬を掻きながらいう。

「ううん。泣く事は自然な事だよ…。望、これからはつらい時、
悲しい時は皆を頼ってね。それに、普賢さんもすっごく心配してた」

「…かたじけない」

はにっこりと太公望に笑うと太公望も微笑んだ。
そうしてもう一度強く抱き締めると、頬に軽い口付けをした。





皆の太公望への不満は普賢によって誤解を解かれ、崑崙の仙道達は
また一丸となって平和な人間界を作ろうと奮闘した。





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太公望初夢です。
く、暗い…。
しかも、天化あんなに悪い子じゃないぞ!!
ごめんなさ…!!あっ石投げないで!!(笑)
この作品の登場人物ってみんなうそっぱちなキャラですね;

こんな駄作を此処まで読んでくださり有難うございましたっ!!
ほんの少しでも暇つぶしになってくだされば幸いです(*´∀`*)

2005/4/3