その双眼に映るのは、俺であって欲しいと

自分勝手なことを考えてる












「かくれんぼ、しない?」


暇だ暇だと人の執務室に勝手に入ってきて、ごろごろその辺を転がっていた
が唐突に言った。
俺は俺で(自分で言うのもなんだが)珍しく机に向かい雑務をこなしている
最中だった。このままさぼってると執務は溜まる一方だし、何より従弟が恐い。
後で何されるか目に見えてるからな。
はというと、執務の方はいつも早めに終わらせる。
相変わらず、仕事の出来るやつだ。


「は?」

「だーかーら、かくれんぼ」

「なんで?やんねえよ、そんなもん」


女官かなんかとすれば、との方を向きもしないでいったら
暫くぶーぶー文句を言っていた。

なんで今更かくれんぼなんだ?
今に始まったことではないのだが、は幼い一面が多々あった。
例えば夜のこと。一緒に酒を飲んでたら、窓にぶつかる風の音ひとつひとつに
びくりと肩を揺らしていたし、夜一人で廊下を出歩こうとはしない。武将のおまえが
それでいいのか、とつっこみたくもなる。
そして一番に幼さを感じさせるのは、よくこける。ということだ。


「じゃあさ、こういうのはどう?」


その言葉に馬超はの方を漸く振り返った。


「馬超が鬼で、わたしが逃げるの。で、そうだな、時間はお日様が落ちるまで!
馬超がわたしを見つけられたら、馬超のいうことひとつだけ何でも聞くわ」

「……」

「どう?」

「…何でも?」

「ええ、何でも」


にやり、とは笑った。
こういう顔をしている時は何かを企んでいるときの顔だ。
長年付き合ってるんだ、すぐわかる。でも、あえて俺はそれに乗った。
要は、を捕まえればいいんだろ?


「乗った。しようぜ、かくれんぼ」


「やった!ただし、馬超がわたしを見つけられなかったらわたしのいうこと聞いてよね」




こうして、馬超とのかくれんぼ対決ははじまった。















「くそ、いねえよ」

速攻見つけられると高をくくっていたが、案外見つからないもんだ。
どこに隠れてるんだ。辺りを見回しながら廊下を進んでいくと、ある一室から賑やかな
声がする。
まずは情報収集か。そう思って部屋を覗いてみた。
そこでは、関平と星彩が話していた。


殿、可愛いことを言うのね」

「凄く嬉しそうに話してたな!せ、拙者達も…」

「あ、馬超殿」


可哀想なことに星彩の言葉に遮られた関平。

「………」



「なあ、を見なかったか?」

「ええ、でも内緒にと」

「…そうかよ」

これ以上聞いたって話してくれるはずもない。

のこと、何話してたんだ?」

「ふふ、それも内緒です。ね、関平」

「へ!?あ、そ、そうです、内緒です」

「そうかい」

話してくれるとも思わなかったので、馬超はそのまま二人に背を向けた。
が、もう一度首だけをむける。

「関平、すまん」


先ほどまで話していたんなら、そんなに遠くに行っていないはずだ。
馬超はいく宛てもないので適当に其処らへんを探すことにした。



庭へ出て、鍛錬場の方へ行くと趙雲と姜維の姿があった。
二人は鍛錬とまでは行かないが、遊び半分で棒を振るっていた。

「趙雲、姜維」

「馬超殿!どうなさったんです?」

「馬超もやるか?」

そういって趙雲は槍棒を馬超に差し出した。が、馬超はそれを手で制する。
きょろきょろと辺りを見渡す馬超に、二人は不思議そうな顔をした。

、見なかったか?」

「ああ、かくれんぼでしたね」

姜維の言葉に二人を仰ぎ見る馬超。

「なんで知ってんだ?」

「だって、先ほどまで此処にいましたよ、殿」

「何?あいつ…」

かくれんぼを鬼ごっこか何かと間違っているのだろうか。
かくれんぼとは普通は見つからないように隠れてじっとしているものだろう?
まあ、のことだ。じっとしていられないのだろう。
だからあいつは奇襲部隊には向かないんだ。

馬超がそんなことを思っていると、今度は趙雲が話し出した。

「賭け事をしたんだろう?」

「まあな、そんな大それたもんじゃないが」

そうは言っているが、実際はかなり重大なことだ。
何でもいうことを聞いてくれるんだ、絶対に見つけてやる。

「勝ったら何を聞いてもらうんです?」

にこにこと話す姜維に馬超は平然を保っていった。

「大したことじゃない」

「どうだか」

鼻で笑った趙雲を蹴った。
そのまま出て行こうとする馬超に、後ろから声がかかった。

「あんまり酷いことを要求するなよ」


「俺がそんな男に見えるか?」

馬超はそういったと同時に姿を消した。

「なあ、姜維」

「はい?」

「馬超だから、心配だよな」

「はは、まあ頑張って頂きたいですね!それにどちらが勝っても結果は対して変わらない
と思うのですが」

「…それもそうだ」

二人は小さく溜息を吐いた。口元とは、微かに笑っている。





太陽も、だいぶ西に傾いてきた。
木々が金色になってきてしまった。そろそろ本気で見つけなければ。
そう思って走り出そうとしたら、視界の隅に影が見えた。
誰かと思ってそちらを見ると月英殿が大きな木の下に立っているではないか。
一人で何をしているんだ、と思い近づいてみる。

「月英殿」

「あら、馬超殿…」

月英は何故か含み笑いをしていた。
両手を後ろに組んで、馬超の顔を窺っている。

「どうなされた?こんなところで」

「いえ、ただ西日に輝くこの大きな木が綺麗だったもので…」

「まあ、確かに。ところで月英殿、を見ませんでしたか?」

それどころではない馬超は生返事を返す。

「…さぁ。ねえ馬超殿、この大きな木、結構高いですね」

「…はい、それが何か…?」

「高所恐怖症の者がうっかり登ってしまったりしたら、大変ですね…。
あら、もうこんな時間。そろそろ孔明様のところに戻りましょう。では」

「頑張ってくださいね」という言葉を残して月英はその場を去って行った。
馬超はその月英の後姿を見つめながら、首を傾げた。

あの意味深な微笑みと言葉はなんなんだ?
それに頑張れとは…、まるでとのかくれんぼを知っているような…。

…………!


馬超は木を真下から仰ぎ見た。
金色に光る木は、真下から見れば内側は真っ黒で。
しかし、その中でも黒い塊がある。


「…、見つけた」

「……馬超〜…助けて〜」

馬鹿か、と馬超は額を押さえて俯いた。
木の上では、少女が今にも泣きそうな表情でいる。

「お前、高いとこ苦手なのによく登ったな」

「忘れてたの…此処なら見つからないと思って」

「……馬鹿」

木の一番低いところから、地面までは結構な距離があった。
がどうやって登ったのかは謎だが、馬超の身長よりもはるかに高い。

「どうすんだよ」

「どうしよう…。馬超〜…」

弱々しい、いつもより甘い声で言われるとどうにかしてやらねえと、と
思ってしまうのが俺がこいつに対する弱み。
惚れた弱みっていうやつ?馬鹿馬鹿しいけどな。



「こいよ」

「へ?」

「飛び降りろ、っていってんの!」

「え!?無理無理!恐いってば!!」

「いいから!」

「やだ!恐い恐い!」


、俺を信じろ」

急に、真面目な低い声で言われた。そんな馬超にどきっとして。
馬超なら、馬超が大丈夫っていえば、絶対大丈夫なような気がして。
きっと安心させてくれるために真面目に言ったんだろう。

「……馬超、飛ぶよ…?」

「ああ、来い。ちゃんと受け止めるから」

両手を広げて馬超が待ってくれている。
は目を瞑って、意を決して飛び降りた。




どしん!、という衝撃は当たり前だが全くなかった。
綺麗さっぱり馬超の腕の中に収まっている。
形で言えば、俗に言う『お姫様抱っこ』。

目を恐る恐る開くと、思ったより近くに馬超の顔があった。

「きゃー!!」

「いてぇ!なにすんだ!!」

「だ、だって馬超の、…!」

「ったく。張り手することねえだろ」

「ご、ごめん…」

「怪我はないか?」

こくり、とが頷くと「よし」と馬超が言って地面に降ろす。
地面に足をつけることが出来て、安心するはずなのに、心なしか何だか少し寂しい。


「……勝負は馬超の勝ちね。なんでもいうこと聞くよ?」

「…俺だけのものになれ」

「なんだ、それくらい…ってうそぉ!?」

「いちいち煩い。…まあ、お前が本気で嫌っていうなら無理強いはしない」

「…いや、そ、その」

「でも、俺はが好きだ。だから、俺だけのになってほしい」

普段なら、絶対こんな恥ずかしい科白なぞ言うはずない。
でも、言うなら今しかない。

が欲しい。


「…?」

返答がない俯いたに、馬超は不安になり手を差し伸べた。
そのまま頬に触れるとはぴくっと跳ねた。

「だ、駄目。顔あげらんない…」

「何故?」

「絶対顔真っ赤だから…」

小さく呟いた可愛い言葉に、馬超は喉の奥でくつくつ笑った。
そのまま綺麗な細い髪の毛を梳いてやる。


「で、お前が勝ったら、何を俺に望んだんだ?」

「…一日、デートを…してもらおうと…」

「そんなことか」

馬超はよっ、と掛け声を上げると軽々とを抱き上げてしまった。
先ほどと同じ体勢。



「毎日しよう」

「うん」

「夜這いも」

「…おい」



---------------------------------

馬超とかくれんぼ!
月英様、ナイスです!`(゚∀゚)'(笑)
硬派な、一途な馬超が大好きです★

この夢で一番可哀想なのは、やっぱり関平だね♪(オイ)
星彩に一直線で、報われない関平。そんなあなたがスキ☆(笑)